「やばい!!」
真二は、昨日レストランで会って以来、チカとは連絡を取っていなかった。
電話をしても留守電になるし、
メールを送っても返事が来ない。
昨日の様子を思い出すと、
だんだん、チカが本当に来てくれるのか不安になっていた。
チカが来なければ、このイベントの成功はあり得ないのだ。
そして、とうとうイベント当日を迎えてしまった。
メグとはちょくちょく連絡を取り合っていた。
ドレスや指輪の準備も完璧だ!と、真二の不安をよそに
確実に盛り上がっている。
「真二さ、ちゃんとチカのこと信じてあげなきゃダメだよ。
女の子なんだから、ちょっとしたことでも不安になるし、
特にチカは妄想癖があるんだから、ネガってきたら、とことん落ち込むからね。」
もう、メグには頭が上がらない。
何もかも、お見通しと言った感じだ。
「チカはちゃんとイベントに来てくれるかな」と不安を漏らしたら、
「どんなに不安になったって、どんなに頭に来てたって、
チカはやっぱり真二の方を向いてるんだから。
あんたたちが大事にしてきたものって、
そんなことくらいで壊れるものじゃないでしょ。
真二が信じてあげなきゃ、誰がチカのことを守るのよ」
いつになく、真っ直ぐなまなざしで、メグは真二に向かってそう言った。
恋の浦で開催される、今日のイベントには
なんと何千人もの観客が訪れていた。
絶対に失敗は、許されないという緊張感と
本当にチカが来てくれるのかという不安のもと、
真二はせわしなく働いていた。
チカはその時、まだ迷っていた。
真二を信じるべきなのだろうか。
ホントのところ、自分の気持ちがわからなくなってきていた。
そして、この1年間を思い出していた。
このライブイベントが決まって、プロポーズをされたあの日から
もう一年もたった。
その間中、チカはずっと真二のそばにいた。
どれだけ頑張っていて、下げたくもない頭を下げたり
休みも返上で駆け回っていた。
本当の真二の気持ちが知りたい。
秋の始まりの夕暮れは、ほのかにピンクがかったオレンジの空
太陽が沈み、その余韻で照らされる空はマジックアワーと呼ばれている。
このライブイベントも佳境に入り、いよいよ最後のゲストが登場を控えている。
真二は再び、チカに電話をかけた。
間に合わない。真二は焦っていた。
ステージ上は順調に進んでいる。
ただひとつを除いては。
会場全体は最後のシークレットゲストの登場を、今か今かと待ちわびている。
その時、薄暗いステージからは静かに曲のイントロが流れ出した。
真二は観客席の合間を縫うように走り回り
チカを探していた
来てないのかもしれない。
どうしても、チカにいて欲しい。
いや、いてくれないと困る。なぜなら、ここまで一生懸命になれたのは、チカがいたからなのだから。
イントロが終わり、力強く、優しい歌声が一瞬にして会場を包み込む。
スポットライトの当たるステージ。
誰も予想してなかった超大物のシークレットゲストの登場に、
観客たちは最高潮の盛り上がりをみせた。
・ ・・その瞬間、ようやくチカとの電話が繋がった。
チカは黙ったままだ。
電話口の後ろから聴こえてくる音楽は、
真二のすぐそばから聴こえている音楽と
共鳴している。
ふと視線を上げた真二の目の前には、
携帯を握りしめたまま、立ち尽くすチカの姿があった。
「来てくれたんだ・・・」
チカはステージを見据えたまま、両手で口をふさいで
ぼろぼろと涙を流していた。
胸を締めつけられるような、
それでいて熱いものがこみ上げてくる。
涙が止まらない。
チカの涙の理由。
それはステージから流れてくる曲のせいだった。
真二がこれまで、チカに語りかけたあたたかい言葉の数々が
歌声といっしょに空から降りそそいでくるようだった。
数年前、チカがどうしても行きたいと言っていたライブ。
真二の事故のせいで行くことができず大ケンカになった。
あれ以来、二人の間で封印していた曲。
そう、ステージで流れているのは、
紛れもないシェリル・レイ本人が歌う「Good is Good」だった。
真二はチカに駆け寄った。
「チカ、待たせて ごめん」
「あした、結婚しよう」