「ずっとやりたかった仕事が決まったんだ!結婚しよう」
28歳を3日を過ぎたチカに、真二はプロポーズした。
「タイミング悪いんだから。
どうせプロポーズしてくれるなら、3日前の誕生日にして欲しかったな」
「でも、チカ、相当うれしそうじゃん」
電話口でメグが笑いをこらえて冷やかすように言った。
高校時代からの友達で、これまでチカが付き合って来た彼氏を
ほとんど知っている。
「まあね、2年も付き合ってんだから責任取ってもらわないとね」
冷ややかに言葉を返したが
ホントはプロポーズされた夜、
チカは家に帰ってからテレビを観ていても
お風呂に入っていても
化粧を落としている時でさえ、
真二のプロポーズの言葉が、頭の中でヘビロテされていた。
ついつい意味もなくニンマリ笑っていたりしていたのだ。
一緒に住んでいる妹にさえ、
「お姉ちゃん、突然ニヤニヤして気持ち悪いよ」
と言われた。
真二とは2年前、チカが働いているインテリアショップの
5周年パーティーの時に知り合った。
5周年ということもあって、
これまで毎年行われていた、
顧客を数十人招待して行われるアニバーサリーパーティではなく
アーティストを呼んでライブをしたり、
近所のイタリアンレストランからケータリングを頼んだりして
ちょっとばかり豪勢な記念パーティ。
そのパーティーを取り仕切っていたのが
真二がやっているイベント会社だったのだ。
お客さまにも好評で、なかなか素敵なパーティだった。
その後も真二は何度か店に買い物に来た。
彼の選ぶ、ちょっと変わったインテリアのセンスが、
チカは気に入っていた。
「なんか、選ぶものが変わってますよね。私は好きなチョイスなんだけど、
実はあんまり売れない商品だったりするんですよ」
「マジ!?俺、超センスいいと思ってたんだけど」
二人の間に小さな秘密のような、共通点が生まれていた。
それ以来、だんだんと二人は食事に行くようになり、
なんとなく付き合い始めた。
といっても、
「付き合ってくれ」と真二から直接言われたことはない。
私たち付き合ってるのかな?違うのかな?もしかして遊び?とか思っていて、
それを聞こうかどうしようか迷っていた頃、
真二の方から
「こないだカフェで会ったチカの友達さぁ、俺のこと何かいってた?」
「何かって、何?」
「いや、チカの彼氏ってカッコいいね、とか」
「へ〜〜〜、自分のこと、カッコいいと思ってんの?
そんな恥ずかしいことよく自分で言えるよね」
からかうように、真二の言葉を制したが、
そのとき、
あ、私たち付き合ってたんだ、と思ってちょっぴり安心した。
真二の方からチカの“彼氏”が、自分だと言ったのだ。
それからは、ちゃんとした言葉がなくっても、
付き合っている、という意識がリアルになってきた。
それから2年経ち、誕生日を2回ずつお祝いし、
クリスマスも二夜を過ごし、
初詣に宗像大社へ二度、お参りに行った。
そして、3度目を迎えたチカの誕生日の3日後に、
プロポーズされた。
チカには常日頃、思っていることがある。
お互いを「好き」な気持ちを天秤にかけたら、
絶対チカの「好き」度合いの方が勝っていると。
だからこそ、真二からのプロポーズは、
四六時中、思い出してはニヤニヤしてしまうほど、
うれしかったのだ。
結婚式はどこで挙げよう。
ドレスはやっぱレンタルだよね・・・。
(ホントは一生の思い出だからオーダーメイドにしたいんだけど)
指輪は二人だけのオリジナルを作ってもらおう。
つい昨日までは、頭の片隅にさえなかった
ワードが泉のように湧いてくる。
「結婚しよう」って、
こんなにも女の子の脳みそを総入れ替えしちゃえるほど、
パワーがあるんだ。
そんな、のろけ話を電話の向こうにいる親友のメグに向かって
2時間45分も語っていた。
「もう、あたし、寝ていいかな?」
そう言って、あきれながらメグは電話を切った。
「あ〜〜〜、また今月、ケータイ料金相当かかるな」
ちっとも反省している様子もなく、
電話を切った後、ひとりごちた。
あれから10ヶ月ほどたった今、忘れそうになっていたあの時の喜びを
チカはひとり思い出していた。